心の復興のシンボルから能登半島地震の被災地への祈りを込めたマーラーの交響曲第9番~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第147回定期演奏会~

【PACファンレポート69 兵庫芸術文化センター管弦楽団 第147回定期演奏会】2024年の年明け最初の定期演奏会は佐渡裕芸術監督が指揮するグスタフ・マーラー(1860―1911)の交響曲第9番 ニ長調。開演前に拍手に迎えられて登場した佐渡さんはまず、シーズン初めに取り組んだ楽団へのクラウドファンディングの協力へのお礼を述べた。

「PACオーケストラは、アカデミーの要素を持つ珍しい楽団で、団員たちは3年間という限られた時間で演奏経験を積み、国内外に羽ばたいていきます。今や日本のオーケストラには、どこへ行っても卒団生がいると言っても過言ではありません。海外のオーケストラにも多数の音楽家が巣立っています。彼らの挑戦を助けるために目標額500万円から始めたクラウドファンディングでしたが、たくさんの方が寄付してくださり、最終日には目標額の倍、1千万円を超える金額を集めることができました。大切に使わせていただきます」

次いで「当センターは阪神・淡路大震災から10年後に、心の復興を目指して設立されました。元日に起こった能登半島地震で被災された方々を支援するために、今日の演奏が終わった後ロビーで募金活動を行います。僕も募金箱を持って立ちますので、ぜひご協力ください。被災地にある程度まとまった額を送るために、夏のオペラの時期までは募金活動を続けたいと考えていますので、息の長いご協力をお願いします」と呼び掛けた。

佐渡芸術監督が2023-24シーズンの最後を飾る8月の第152回定期演奏会で演奏するシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」をテーマに、寺門孝之さんが絵本のように描き進める趣向の今シーズンのプログラムの表紙。1幕4場の城の前のシーン。ペレアスはメリザンドに「僕はたぶん、明日旅立ちます」と告げる

そして「今日演奏する曲は、マーラーが最後に作った交響曲です。ニ長調という明るい調性ですが、マーラーらしい壮大さの中に、様々に複雑な感情が顔を出します。そして最後はとても静かに、まるで天国への階段が見えてくるような終わり方をします。

来年のプログラムを少し紹介しますと、2025年1月は阪神・淡路大震災から30年という年になります。定期演奏会の日に1・17が含まれるので、その日は特別なことを考えていますが、1000人の交響曲と言われる、マーラーの交響曲第8番を演奏する予定です。また、来年8月は終戦から80年という節目の年でもあるので、ブリテンの戦争レクイエムを演奏したいと思っています」と話した。

 

舞台上は総勢101人の大編成。弦楽5部で62人を数える。これだけ多くの演奏家たちが佐渡芸術監督の指揮のもと、互いの音に耳を澄ませ、心を合わせる。

第1楽章。重厚な音の圧がふいに途切れた時、静かに、しかしきっぱりと立ち上ってくるホルンやオーボエ、フルートなど木管の軽やかな調べ。そこに弦をはじめとするほかの楽器が同調して、新しい音の世界が始まる。その繰り返しはまさに、寄せては返す波のよう。心地よく身を委ねていると、突然の大音量と爆発に驚かされる。

三拍子の第2楽章、目まぐるしくせわしないテンポで駆け巡る第3楽章を経て、第4楽章は再び大編成の弦が導く荘重な音の大河。その音が途切れた時に、小さな音で鳴り始める楽器の呼び掛けに、そこここから応える楽器が再び大きな流れを作り出していく。その音の連なりを聞いて私は「恐れずに自分らしく生きよ」というメッセージを受け取ったような気がした。

終盤、たくさんの楽器が鳴っているのに、徐々に静寂が支配していく。消え入るように大ホールから音が途絶えた後、指揮する佐渡さんの手は祈りをたたえてしばらく上がったままだった。

 

演奏会終了後、佐渡芸術監督はじめ出演者たちがロビーで募金活動を行った。3日間の定期演奏会で集まった支援金は3,217,804円だったという。現在、センター2階の総合案内/チケットカウンターに募金箱を設置して引き続き支援を呼び掛けている

コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンのビルマン聡平(新日本フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席、神戸市室内管弦楽団奏者)、チェロの伊藤文嗣(東京交響楽団首席)、コントラバスの石川滋(読売日本交響楽団ソロ・コントラバス)、バスーンの中野陽一朗(京都市交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはフルートの柳原佑介(東京都交響楽団首席)、オーボエのクリストフ・ハルトマン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団奏者)、PACのOBでもあるクラリネットのロバート・ボルショス(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、トランペットのハネス・ロイビン(元バイエルン放送交響楽団ソロ・トランペット)、パーカッションの奥村隆雄(元京都市交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン5人、ヴィオラ2人、チェロとクラリネット(前出のスペシャル・プレイヤー)、ホルンが各1人参加した。(大田季子)

 




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